飾《クラバァト》に手がかかる。
――まあ、この薄情が! ちょっとお出で。
鋪石へ連れ出す。
気の利いたタキシーがすぐ側へ乗りつけて来て無言で扉《ドア》をあける。後れ走せに馳けつけた巴里の巡査が二人を軽く押し込んで扉を締める。
――行先きは二人でよく相談しなさい。
そしてわざと丁寧な挙手をした。
二人の抜けたあとの行列の空所は直ぐうずまった。
基督降誕祭《ノエル》にはあと四五日の土曜の夜だ。高いオペラの空気窓から「タイスの」唄が炭酸|瓦斯《ガス》にまみれて浮き出ている。遅々たる行列の進みが百貨店の外の入口まで届くと黒服の店員に管理されて人数の一くぎり[#「くぎり」に傍点]ずつが内側の入口の床石に誘われる。ここは三面飾窓で囲まれて兎の口のようになっている。飾窓の二面は普通の新衣裳の飾人形だが、残った一つの入口に向って右の飾窓のがみんなの目あての「エッフェル塔見物」の機械人形だ。
英吉利《イギリス》の田舎おやじらしい、塔の欄干から外へ墜ちかけた。若者がズボン釣を捉えた。おやじは甲蟲《かぶとむし》のように※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》く。下はセーヌを目尺
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