岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)掌《てのひら》を

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)相当|賑《にぎわ》つた

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「くさかんむり/(月+曷)」、第3水準1−91−26]《ろう》たけき

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ポツ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 ――お金が汗をかいたわ。」
 河内屋の娘の浦子はさういつて松崎の前に掌《てのひら》を開いて見せた。ローマを取巻く丘のやうに程のよい高さで盛り上る肉付きのまん中に一円銀貨の片面が少し曇つて濡《ぬ》れてゐた。
 浦子はこどものときにひどい脳膜炎を患《わずら》つたため白痴であつた。十九にもなるのに六つ七つの年ごろの智恵しかなかつた。しかし女の発達の力が頭へ向くのをやめて肉体一方にそゝいだためか生れつきの美人の素質は息を吹き込んだやうに表面に張り切つた。ぼたんの花にかんなの花の逞《
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