たく》ましさを添へたやうな美しさであつた。河内屋の生人形《いきにんぎょう》、と近所のものが評判した。
 浦子は一人娘であつた。それやこれやで親たちは不憫《ふびん》を添へて可愛《かわ》ゆがつた。白痴娘を持つ親の意地から婿は是非《ぜひ》とも秀才をと十二分の条件を用意して八方を探した。河内屋は東京近郊のX町切つての資産家だつた。
 三人ほど官立大学出の青年が進んで婿の候補者に立つた。しかし彼等が見合ひかた/″\河内屋に滞在してゐるうちに彼等はことごとく匙《さじ》を投げた。「紙!」「紙!」浦子は便所へ入つて戸を開けたまま未来の夫を呼んで落し紙を持つて来させるやうな白痴振りを平気でした。
 松崎は婿の候補者といふわけではなかつた。評判を聞きつけて面白半分娘見物に来たのだつた。松崎は鮎釣《あゆつり》が好きだつたところからそれをかこつけに同業の伯父《おじ》から紹介状を貰《もら》つて河内屋に泊り込んでゐた。X町のそばには鮎のゐる瀬川が流れて季節の間は相当|賑《にぎわ》つた。松崎は工科出の健康な青年で秋口から東北の鉱山へ勤める就職口も定まつてゐた。
 もはや婿養子の望みも絶つた親たちはせめて将来自分一人
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