な気がして故国との距離感を暫く忘れたほど東洋的な閑寂な気分に引入れられた。その間、二三度伯林から汽車が着いて此の町の住宅へどやどやと帰って行く勤人の群集《マッス》が眼の前の広場を遮《さえぎ》り通るのもあまり気にならなかった。私はまた、日本の田舎の町辻にある涎掛《よだれか》けをかけた石の地蔵とか、柳の落葉をかぶっている馬頭観音とかいうものの姿が、直ぐ其処《そこ》らにでも見当るような親しさで、胸に思い出して居た。
硝子窓の外で、ぎらりと光った数珠《じゅず》の玉が眼に映ったのと同時に、この出張りの天井の電燈もついた。光った数珠の玉は連翹《れんぎょう》の撓《しな》った小枝に溜った氷雨か雫であった。そこに一台の自転車が錆びたハンドルだけ見せていた。
デザートを運んで来た給仕を何気なく見て私は驚いた。それは、さっき仏陀寺で遭った青年だった。今は給仕の服にエプロンをかけていた。青年はすこしの間でも客の女性を不審の中に置くまいとする気遣いらしく、少しあわて気味の早口で言った。
「先刻は失礼しました。私は此処の給仕人を勤めているものです。もっとも臨時雇ですが、――あなたにもっと仏教のことを伺い度《た
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