瞑《つむ》っていた。
私はこの青年の礼拝の仕様があまりに不器用なので真面目なのか、冗談なのか見境がつかなかった。けれども、そんなことはどうでもいいのだから、兎《と》に角《かく》その青年を妨げぬよう、すこし離れて石碑へは斜に、私の礼拝の時の癖になっている未敷《みふ》蓮華と、それから開敷《かいふ》蓮華の道印を両手で結んで立ちながら、丁寧に頭を下げた。
私の素振りを横眼でちらりと見たようだった青年は、急に手を解き捨て膝を立ててしまった。その様子が、如何にも極《きま》りの悪いことをしていたのを早く止めたという風で気の毒に思えた。その青年はやや顔を赧《あか》らめさえして私の立去り際を押えて口籠って言った。
「仏教では、掌の合せ方は、いま、あなたのなさったようにするのですか。大変難かしいですね。恐れ入りますが教えて下さいませんか。どうぞ、どうぞ」
私はその求め方があまり唐突なので笑ってしまった。それから「失礼しました」と断って笑いを収め、
「いえ、別段、難かしいことはないのです。礼拝は心を統一さす為めの形式方法なのですから、めいめい自分に都合のよい手の合せ方をすればいいのです。けれども普通は
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