ていた。
仏陀寺の中を探し廻って私は、矢張りあの本堂の石碑の前で、青年と連れの女とに出会った。私が教えたように青年は手を合せ、連れの女も並んで同じ形をしていた。
礼拝が済んで青年は私の姿を見ると悦《よろこ》んだ顔色をして近寄って来た。
「あなたでしたか。もうお目にかかれないと思っていました」
それから派手な着物だが帽子とはちぐはぐな服装をしている連れの女を私に紹介した。伯林ウインター・ガルテンの下《した》っ端《ぱ》の女優で半日はお裁縫に行き、夜は舞台で稼いで喰べているというのだ。見たところ、小柄ながらがっしりしてよく働きそうな独逸少女だった。
「どうですか、御様子は」
私は何となく遠廻しに斯んな言葉で尋ねた。
「いや、ヘッセの本はまだ買いません。この象徴的な東洋の文字の縦に書いてある鼠色の石碑に向って、あなたの教えた通り手を合せていると、何となく静かな気持ちになって感情がスポイルされます。それで此の間からこの女にも教えてやらせています。けれどもこの女は何とも無いと言うのです。この女が私にくっついて居るうちは私の印度入りは絶望です」
彼は女を顧みて苦笑した。
青年はレストーラ
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