越年
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)弾《はず》んだ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一時|痺《しび》れた
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ずらかろう[#「ずらかろう」に傍点]
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年末のボーナスを受取って加奈江が社から帰ろうとしたときであった。気分の弾《はず》んだ男の社員達がいつもより騒々しくビルディングの四階にある社から駆け降りて行った後、加奈江は同僚の女事務員二人と服を着かえて廊下に出た。すると廊下に男の社員が一人だけ残ってぶらぶらしているのがこの際妙に不審に思えた。しかも加奈江が二、三歩階段に近づいたとき、その社員は加奈江の前に駆けて来て、いきなり彼女の左の頬に平手打ちを食わした。
あっ! 加奈江は仰反《のけぞ》ったまま右へよろめいた。同僚の明子も磯子も余り咄嗟《とっさ》の出来事に眼をむいて、その光景をまざまざ見詰めているに過ぎなかった。瞬間、男は外套《がいとう》の裾《すそ》を女達の前に飜《ひるがえ》して階段を駆け降りて行った。
「堂島さん、一寸《ちょっと》待ちなさい」
明子
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