をしようと、もじもじしていたのですが、連れの者が邪魔して、それを果しませんでした。よって手紙を以《も》って、今、釈明する次第です。平にお許し下さい。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]堂島潔
としてあった。加奈江は、そんなにも迫った男の感情ってあるものかしらん、今にも堂島の荒々しい熱情が自分の身体に襲いかかって来るような気がした。
加奈江は時を二回分けて、彼の手、自分の手で夢中になってお互いを叩《たた》きあった堂島と、このまま別れてしまうのは少し無慙《むざん》な思いがあった。一度、会って打ち解けられたら……。
加奈江は堂島の手紙を明子たちに見せなかった。家に帰るとその晩一人銀座へ向った。次の晩も、その次の晩も、十時過ぎまで銀座の表通りから裏街へ二回も廻って歩いた。しかし堂島は遂に姿を見せないで、路上には漸《ようや》く一月の本性の寒風が吹き募って来た。
底本:「岡本かの子全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「老妓抄」中央公論社
1939(昭和14)年3月18日発行
入力:門田裕志
校正:noriko sa
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