もこの西側の裏通りを、別に堂島なんか探すわけじゃないけれど、さっさと歩いてスエヒロの方へ行きますか」
加奈江は明子と相談した。
「そうね、何だか癖がついて西側の裏通りを歩いた方が、自然のような気がするんじゃない」
明子が言い終らぬうちに、二人はもう西側に折れて進んでいた。
「そら、あそこよ。暮に堂島らしい男がタクシーに乗ったところは」
明子が思い出して指さした。二人は今までの澄ました顔を忽《たちま》ちに厳くした。それから縦の裏通りを尾張町の方に向って引返し始めたが、いつの間にか二人の眼は油断なく左右に注がれ、足の踏まえ方にも力が入っていた。
資生堂の横丁と交叉する辻角に来たとき五人の酔った一群が肩を一列に組んで近くのカフェから出て来た。そしてぐるりと半回転するようにして加奈江たちの前をゆれて肩をこすり合いながら歩いて行く。
「ちょいと! 堂島じゃない、あの右から二番目」
明子がかすれた声で加奈江の腕をつかんで注意したとき、加奈江は既に獲物に迫る意気込みで、明子をそのまま引きずって、男たちの後を追いかけた。――どうにかこの一列の肩がほぐれて、堂島一人になればよいが――と加奈江は
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