》に見た。これも昔見た友の癖である。


 かの女は女学校を卒業して親の家で結婚前の生活をしてゐる期間に、望まれて父親の知合ひで郊外に隠寮を持つ退職官吏Yの家へ客分として預けられることになつた。
 退職官吏Yの考へでは、自分の蒐集品《しゅうしゅうひん》の殊《こと》にこまかい細工ものゝ昔人形や、壊れものゝ陶《すえ》もの類は、骨董《こっとう》美術品商の娘であるかの女の馴《な》れて丹念な指先が、手入れ保存に適当だと思つたからであつた。かの女の父はまたかの女がたとへ富んだ老舗《しにせ》の長女でも、下町の娘であるからには躾《しつ》けに至らぬ我儘《わがまま》なところがあらう。一度は上層智識階級の家へ入れて見習はしたいといふ昔風の考へがあつた。雪子の父はなまじなよその夫人よりY家の主人を非常に厳格な躾け正しい人と信じてゐたから……
 かの女はちよつとした嫁入支度ほどの調度を持つて、Yの隠寮へ寄寓した。


 あてがはれた庭向きの客座敷の隣の八畳へ調度を収めて、女らしい部屋にしてかの女は落着いた。家長のYは、かの女が落着くとすぐ部屋に兵児帯《へこおび》をちよつきり結びにした大兵《だいひょう》の体を唐突
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