てゐた。それが持つ憂愁の甘美は、西洋的の動物質と東洋的の植物性との違ひはあるが、梅麿が持つものとほとんど同じだつた――。健かな肉付きは、胸、背中から下腹部、腰、胴へと締《しま》つて行き、こどもの豹《ひょう》を見るやうだつた。流暢《りゅうちょう》で構梁の慥《たし》かな肩の頂面に、つんもり扇形の肉が首の附根の背後へ上り、そこから青白く微紅を帯びた頸《くび》が擡《もた》げられた。
 だが、雪子の魅《み》せられたのはさういふ一々のものではない。何代か封建制度の下に凝り固めた情熱を、明治、大正になつてまだ点火されず、若《も》し点火されたら恨《うら》みの色を帯びた妖艶《ようえん》な焔《ほのお》となつて燃えさうな、全部白臘で作つたやうな脂肉のいろ光沢《つや》だつた。それにはまた喰ひ込まれてゐる白金の縄を感じた。


 久隅雪子はほたる見物にことよせて私を招き、文学者である私にだけは是非《ぜひ》この話をして、自分のこの家に落着く気持を分担して貰《もら》ひ度《た》いのだつた。この家はその奇矯《ききょう》な親子兄弟の棲《す》んでゐた家だつた。雪子は話し終つて、ほつとして云つた。
「その父親が病死すると直《
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