つた一つ、古油壺に莢になりかけた菜の花。背景=八大山人作蘭の光筆画。
とある廊下の一角==白磁の大水盤に紅白カーネーシヨンの群花入り乱れたる「戦ひの図」
食堂==ミユンヘン国立ビール飲用場の陶製ジヨツキーに石楠花、すかし百合、耳付一輪挿にマーガレツト、スヰートピー。ヴヱニス硝子大皿に金魚藻と水蓮。
花には一々表題がついてゐた。葦屋の宇奈比処女。竪琴。たゞごと歌。フアーストの沈思。わび栞り。白髪。文芸復興時代。放牧。ジヨルジユ・サンド。寧楽。ゴシツク。紫式部。初恋。大饗宴。押韻の詩。等まだ/\数へ切れない。
特別室がある。大広間。弟子達の諸作とやゝ離れた一場に、この大会中特に評判作になつた二作がある。一つの名は「揺籠」、一つは「柩」と題するもの。銑鉄と人造維質で可憐な揺籠が編まれ、縁にチユーリツプの莟の球が一つ挿され、一見至極単純に見えて雅純新鮮な効果を出し、大形の柩は、材に秩父産の蛇紋石を用ゐ、中を人型に開《あ》けて、底に軟い鈴蘭が安らかに活けてある。
この日桂子は殆ど純白とも見える薄青い洋装をしてゐた。その服装はどの活花の傍に桂子が立つても少しも色調に抵触しなかつた。桂子は
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