子が庭先にぼんやり停つてゐる。
「どうしたの」
と訊くと、腰をかゞめてちよつとはにかん[#「はにかん」に傍点]だ余所《よそ》行きのお叩頭をした。その褄外れの用心深さ、腰の手際よき纒め方、袖口を気にする工合、家にゐた時とは別人のやうである。それにも増して桂子のと[#「と」に傍点]胸を衝いたのは、小娘の物憂い表情の中に、覚悟と誇らしげなものを潜めてゐたことだ。
 しじゆう弟子に大勢の処女を扱ひつけ、その上、十六年間花に捧げたつもりで禁慾生活を続けて来た桂子には、人並以上性的鑑識感覚が鋭くなつてゐた。桂子は姪をもはや肉身の伯母の自分すらどうすることも出来ない、一人前の女になつたと、直ぐ見て取つた。何の秘するところもなく親愛し合つた独身女と処女との間柄に段が出来た。そしてこのせん子の相手は? ――「しまつた」とかの女は胸に焼鏝を当てた。
「せん子、なぜ上らないの」
「あの、そこまで小布施さんのお買物に来ましたの……」
 せん子は小布施の名前をわざと白々しく、声高にいふほど度胸が据つてゐた。桂子の方が却つてしどろもどろになつた。
「では、こゝへでも腰をおかけな」
 椽側の金魚の鉢の傍へ座蒲団を出
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