のを予覚すると、こゝろが却つて生々として来て愉しくないこともない。私は一体どういふ女なのだらう。闘志にさへ時にうづく快感を覚えるなんて……。そのうち桂子はだん/\半睡半眠にひき入れられて行つた。瞳孔が弛緩し、目蓋が重く垂れて来るのを、そのまゝにしてゐると、とき/″\反射的にこれを撥ね返す神経があつて、その度に蛍いろに光る桂子の意識の眼に、庭の花が逞しく触れて来た。
庭には葉桜を背景にして、大和国分尼寺の遠州系の庭を縮模した、女性的で温雅な池泉が望まれる。目の前のすぐ椽先に大きな花壇がしつらはれ、教へ子や出入りの花屋が、根付きのものを持つて来たり、温室仕立ての鉢の咲き越したのを埋めて行つたりして、それが季節を違へたり、または季節を守つて四季ともに、撩雑に咲く。教へ子たちは、「花の姨捨山」とも、「花の百軒店」ともいつてゐるが、やはり初夏が一ばん花の盛りである。
桂子がうつら/\と夢に入り夢を出るすれ/\の境に、ポツピー、ルピナス、小判草、躑躅、アスター、スヰートピー、アイリス、鈴蘭、金魚草、アネモネ、ヒヤシンス、山吹、薔薇、金雀児《えにしだ》、チユーリツプ、花菱草、シヤスター、[#「、
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