ちから生醤油をつけた掻餅が好きだったのです」
 しかし、いくら子供の好みがそうだからと云って、堺屋のおふくろに面当てがましく、掻餅を目の前で洗い直さないでもよさそうだと木下は思った。その上子供の木下に向って、掻餅を与えながら、一種の手柄顔と、媚《こ》びと歓心を求める造り笑いは、木下に嫌厭《けんえん》を催させた。堺屋のおふくろは箸《はし》を投げ捨て、怒って立って行った。
「また、こういうことがありました。僕が尋常《じんじょう》小学に入った時分でした。その夜は堺屋で恵比須講《えびすこう》か何かあって、徹夜の宴会ですから、母親は店へ泊って来る筈《はず》です。ところが夜の明け方まえになって、提灯《ちょうちん》をつけて帰って来ました。そして眼を覚ました僕の枕元に座って、さめざめと泣くのです。堺屋のお内儀《かみ》さんに満座の中で恥をかかされて、居たたまれなかったと云います」
 これも後で訊《たず》ね合せて見ると、母親の術であるらしく、ほんのちょっとした口叱言《くちこごと》を種に、子供の同情を牽《ひ》かんための手段であった。
「何でも下へ下へと掻《か》い潜って、子供の心を握って自分に引き付けようとす
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