見上げて、その雫《しずく》の落ちない根元の砂上に竹笠《たけがさ》を裏返しに置き、更にハンケチをその上に敷き、
「まあ、この上に腰を降ろして頂きましょうか」
 そして彼は巻莨《まきたばこ》を取り出して、徐《おもむ》ろに喫《す》っていたが、やがて、私から少し離れて腰をおろして口を切りだした。海を放浪する男にしては珍らしく律儀な処のある性質も、次のような男の話で知られるのであった。
「お手紙で、あの娘と僕とにどうしても断ち切れない絆《きずな》があることは判りました。実はその絆が僕自身にも強く絡《まつ》わっていたのがはっきり判ったのでご座います。それをご承知置き願って、これから僕の話すことを聞いて頂き度いのです。でないと、僕がここへ来て急に結婚に纏《まと》まるのが、単なる気紛《きまぐ》れのように当りますから」
 彼は、私が大体それを諒解《りょうかい》できても、直《す》ぐさま承認出来ないで黙っているのを見て取ってこう云った。
「僕と許婚《いいなずけ》も同様なあれと僕との間柄を、なぜ僕がいろいろと迷って来たか、なぜ時には突き放そうとまでしたか、この理由があなたにお判りになっていらっしゃらないかも知
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