ょっと外遊するぐらいの心支度をしなければならない。
 ――少し当惑しているとき思いの外力になったのは叔母である。娘のとき藩侯夫人の女秘書のようなことをして、藩侯夫妻が欧洲の公使に赴任するとき伴われ、それから帰りには世界の国々をも廻《まわ》って来た女だけに、自分の畑へ水を引くように、私を励ました。
「あんたも一遍そのくらいのところへ行っていらっしゃい。すると世間も広くなって、もっと私と話が合うようになりますから」
 それから、女二人の旅券だの船だの信用状だのを、自分一人で掻《か》き込むようにして埒《らち》を開け、神戸まで見送って呉《く》れた。


 シンガポール邦字雑誌社の社長で、南洋貿易の調査所を主宰している中老人が、白の詰襟服《つめえりふく》にヘルメットを冠《かぶ》って迎えに来て呉れた。朝、船へは紋付の和服で出迎えて呉れたのであるが、そのときに較《くら》べて、いくらか精気を帯びて見えた。
「名物のライスカレーはいかがでしたか。とても辛くて内地の方には食べられないでしょう」
 私は昼の食堂で、カレー汁の外に、白飯に交ぜる添菜《てんさい》が十二三種もオードゥブル式に区分け皿に盛られている
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