繋《つなが》りをいかにもはっきりと娘は自分の心に感じた。
一時はひどく腹を立てても、結局、娘想いの父は、若い学者の家には、平謝りに謝って、結婚を思い切って貰った。若い学者はいくらか面当ての気味か、当時女優で名高かった女と結婚して、ときどき家庭はごたごたしている。
「じゃあ、その方には恋ではなくって、学問の好奇心で牽《ひ》かれて行ったのね。道理で、あなた、河川の事に詳しいと思った」
私は苦笑したが、この爛漫《らんまん》とした娘の性質に交った好学的な肌合いを感じ、それがこの娘に対する私の敬愛のような気持ちにもなった。
「あなた男なら学者にもなれる頭持ってるかも知れないのね」
娘は少し赫《あか》くなった。
「……私の母が妙な母でした。漢文と俳句が好きで、それだのに常盤津《ときわず》の名取りでしたし、築地のサンマー英語学校の優等生でしたり……」
娘はその後のことを語り継いだ。その後、久し振りで、陸に上って来た若い店員に思切って訊いた。
「どうしたら、私はあなたに気に入るんでしょう」
男はしばらく考えていたが、
「どうか、あなたが今よりも女臭くならないように……。」
海の男は相変らず
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