閉じ籠っているのではあるまいか。
 それから、私は注意を二階に集めて、気を配ったが、雪は小止みとなり、風だけすさまじく、幽《かす》かな音も聴き取れなかった。定刻の時間になったので私は帰った。
 あくる日は雪晴れの冴《さ》えた日であった。昨日から何となく私の心にかかるものがあって私は今までになく早朝に家を出て河岸の部屋へ来た。そしてやや改まった様子で机の前に座っていると、思いがけない顔をしてやま[#「やま」に傍点]がはいって来た。私は早く来たことについて好い加減な云いわけを云ったのち天井を振り仰ぎ乍《なが》らやま[#「やま」に傍点]に向って、
「どなたかこの上のお部屋にいるの」と訊《き》いた。
 やま[#「やま」に傍点]は「はあ」と答えた。
 私の心の底の方にあった想像が、うっかり口に出た。
「お嬢さんでもいらっしゃるのではないの」
 すると、やま[#「やま」に傍点]の返事は案外、無雑作に、
「はあ、昨日もお昼前からいらっしゃいました」と云った。
「どういうお部屋なの」
 やま[#「やま」に傍点]は「さあ」と云ったが、実際、室の中の事は知らないらしく、他の事で答えた。
「昨日の大雪で、あ
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