りや》と毛馬屋《けまや》というのがございましたそうですが……」
 しかし、幕末まえ頃まで判っていたその二軒も、何か他の職業と変ったとやらで、堺屋は諸国雑貨販売と為替《かわせ》両替《りょうがえ》を職としていた。
 それから話はずっと飛んで、前の話とはまるで関係がないものを、強いてあるような話ぶりで、老主人は語り継いだ。
「河岸の事務室を開けて、貸室に致しましたのも窮余の策で、実は、この娘に結婚させようという若い店員がございますのですが、どうも、その男の気心がよく見定まりません。いろいろ迷った揚句、どなたか世間の広い男の方にでも入って頂いて、そういう方々ともお付合いしてみて、改めて娘の身の振り方を考え直してみましょう。まあ、打ち撒《ま》ければ、こういった考えがござりましたのです」
 娘は俯向《うつむ》いて、赧《あか》くなった。
「なにせ、私どもの暮しの範囲と申したら、諸国の商売取引の相手か、この界隈《かいわい》の組合仲間で、筋が定まり切っているだけ、広いようで案外狭いのでございます。それにこの娘が一時どういう気か学者になるなぞと申して、洋服なぞ着て、ぱふらぱふらやったものですから、いよいよ
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