語った。ここから近くにあって、外濠《そとぼり》から隅田川に通ずるものには、日本橋川、京橋川、汐留《しおどめ》川の三筋があり、日本橋川と京橋川を横に繋《つな》いでいるものに楓《かえで》川、亀島川、箱崎川があることから、京橋川と汐留川を繋いでいるものに、また、三十間堀川と築地川があることをすらすら語った。
私も、全然、知らないこともなかったが、こういう堀割にそう一々河名のついていることは、それ等の堀割を新しく見更《みあらた》めるような気がした。
「どうぞ、もっと教えて頂戴《ちょうだい》」と私は云った。
すると、娘ははじめて自分の知識が真味《しんみ》に私を悦《よろこ》ばせるらしいのに、張合いを感じたらしく、口を継いで語った。
「隅田川から芝浜へかけて昔から流れ込んでいた川は、こちらの西側ばかりを上流から申しますと、忍川、神田川、それから古川、これ三本だけでございました」
私は両国橋際で隅田川に入り、その小河口にあの瀟洒《しょうしゃ》とした柳橋の架っている神田川も知っていれば、あの渋谷から広尾を通って新開町の家並と欅《けやき》の茂みを流れに映し乍《なが》ら、芝浜で海に入る古川も知っている
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