胸の片隅の方に押し片付けられて、たいして邪魔にもならなくなって来た。いつの間にか人をこうした心状に導くのが南の海の徳性だろうか。
 男はここまで語って眉頭《まゆがしら》を衝《つ》き上げ、ちょっと剽軽《ひょうきん》な表情を泛べて、私の顔を見た。
「そこへあなたのご周旋だったので、ありがたくお骨折りを受け容《い》れた次第です」
 ここで私は更に男に訊《たず》ねて見なければ承知出来なかった。
「そういうことなら、なぜ娘さんにその気持ちの径路を早く行って聞かさないで、こんな処で私一人に今更打ち明けるのですか」
「ははあ。」といって男は瞑目《めいもく》していたが、やがて尤《もっと》もという様子でいった。
「今までの話、僕はあなたにお目にかかってどうしても聞いて頂き度《た》くなったのですが、これをあの娘に直接話したら……」だんだん判って来たのだが元来あの娘には、そういった女臭いところが比較的少ない。都会の始終|刺戟《しげき》に曝《さ》らされている下町の女の中には、時々ああいう女の性格がある。だが若《も》しそんな話をして、いくらかでも、却《かえ》って母親達のような女臭さをあの娘に植えつけは仕ないだろ
前へ 次へ
全114ページ中108ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング