の学生たちと、日の丸行進曲を口笛で吹きつれて坂道の上まで歩き出てみる。谷を越した都の空には霞が低くかかっている。
くめ子はそこで学生が呉れるドロップを含みながら、もし、この青年たちの中で自分に関りのあるものが出るようだったら、誰が自分を悩ます放蕩者の良人になり、誰が懸命の救い手になるかなどと、ありのすさびの推量ごとをしてやや興を覚える。だが、しばらくすると
「店が忙しいから」
と言って袖で胸を抱いて一人で店へ帰る。窓の中に坐る。
徳永老人はだんだん瘠せ枯れながら、毎晩必死とどじょう汁をせがみに来る。
底本:「岡本かの子全集5」ちくま文庫、筑摩書房
1993(平成5)年8月24日第1刷発行
初出:「新潮」
1939(昭和14)年1月号
入力:鈴木厚司
校正:渥美浩子
1999年12月26日公開
2005年9月27日修正
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