夏の夜の夢
岡本かの子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)弛《ゆる》んで
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)窓|硝子《ガラス》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)紫※[#「くさかんむり/威」、第3水準1−91−11]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぽち/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
月の出の間もない夜更けである。暗さが弛《ゆる》んで、また宵が来たやうなうら懐かしい気持ちをさせる。歳子は落付いてはゐられない愉《たの》しい不安に誘はれて内玄関から外へ出た。
「また出かけるのかね、今夜も。――もう気持をうち切つたらどうだい。」
洋館の二階の書斎でまだ勉強してゐた兄が、歳子の足音を聞きつけて、さういつた。
窓|硝子《ガラス》に映る電気スタンドの円いシエードが少しも動揺しないところを見ると、兄は口だけでさういつて腰を上げてまで止めに出ては来ないらしい。
「ええ、もう今夜たつ
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