いふものを挟む必要がなかつた。さういふものを挟む必要が来た時は、もうその星の司《つかさど》る運命は終つたので、彼等は次の星の運命の支配の下に引取られてゐるのだつた。そこでまた彼等は彼等の生命を一ぱいに張り切つた次の生活が始められる。
 僅《わず》か七八夜の僅かな話のうちに僕は判りました。あなたは愛だの好意だのに対して素直で無条件に受容れられさうな理想家風の女性らしいですね。僕の直観に従へば、あなたは僕の考へてゐる恋愛論に共鳴が出来る方らしいですね。
 この夏の七八夜あなたとここで話したメモリーは僕の一生のうちの最も好いメモリーになりさうです。こんなこと云つて失礼だつたら許して下さい。あなたは静間君と結婚なさつても僕はあなたの特異性を貰《もら》つたやうな気がします」
「私の特異性つてものがございませうか。」
「あなたの特異性を強調していふなら、あなたは純潔な処女のまゝ受胎せよといつたら、その気になる方らしいですかな……はははは……。」
「…………。」
 突然牧瀬はつか/\立つて行つて、今までの話題に関《かかわら》せぬやうな、またその続きのやうにも、池の渚《なぎさ》に祈る人のやうに跪《ひざ
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