無《な》い様です。一隅《はじ》には、座蒲団《ざぶとん》を何枚も折りかさねた側に香立てを据《す》えた座禅《ざぜん》場があります。壁間《かべ》には、鳥羽《とば》僧正《そうじょう》の漫画《まんが》を仕立てた長い和装《わそう》の額が五枚|程《ほど》かけ連ねてあります。氏は近頃漫画として鳥羽僧正の画《え》をひどく愛好して居《い》る様《よう》です。
画などに対しても、氏は画面《えづら》そのものを愛すると同時に、その画家の伝記を知るということを非常に急ぎます。近頃の氏の傾向としては、西洋の宗教画家や東洋の高僧の遺墨《いぼく》などを当然愛好します。それも明るい貴族的なラファエルよりも、素朴な単純なミレーを好み、理智《りち》的に円満なダビンチよりも、悲哀と破綻《はたん》に終ったアンゼロを愛するという具合です。
近代の人ではアンリー・ルッソーの画を座右《ざゆう》にして居《い》ます。元来《がんらい》氏は、他に対して非常な寛容《かんよう》を持って居る方です。それは、時に他をいい[#「いい」に傍点]気にならしめる傾向にさえなるのではないかとあやぶまれます。
たとえば、
「あなたが先日あの方にあげた品ですね
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