氏の虚無思想は、氏の無頼《ぶらい》な遊蕩《ゆうとう》的生活となって表われ、それに伴って氏はかなり利己的でもありました。
それゆえに氏は、親同胞にも見放され、妻にも愛の叛逆を企《くわだ》てられ、随分、苦《にが》い辛《つら》い目のかぎりを見ました。
その頃の氏の愛読書は、三馬《さんば》や緑雨《りょくう》のものが主で、其《その》他|独歩《どっぽ》とか漱石《そうせき》氏とかのものも読んで居た様です。
酒をのむにしても、一升《いっしょう》以上、煙草《たばこ》を喫《す》えば、一日に刺戟《しげき》の強い巻煙草《まきたばこ》の箱を三つ四つも明けるという風《ふう》で、凡《すべ》て、徹底的に嗜好物《しこうぶつ》などにも耽《おぼ》れて行くという方でした。
食味《しょくみ》なども、下町式の粋《いき》を好むと同時に、また無茶《むちゃ》な悪食《あくじき》、間食家《かんしょくか》でもありました。
仕事は、昼よりも夜に捗《はかど》るらしく、徹夜などは殆《ほとん》ど毎夜続いた位《くらい》です。昼は大方《おおかた》眠るか外出して居《い》るかでした。
しかしそうした放埒《ほうらつ》な、利己的な生活のなかにも、氏
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