一平氏に
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「みどり」に傍点]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\な
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そちらのお座敷にはもうそろそろ西陽が射す頃で御座いませう? 鋭い斜光線の直射があなたのお机のわきの磨りガラスの窓障子へ光の閃端をうちあてると万遍なくお部屋の内部がオレンヂ色にあかるくなりますのね、そしてにわかに蒸暑くなるのでせう、あなたは急に汗を余計お出しになる。でもあなたは、それがどういふ理由からだか分らないやうに余計出れば、何の気なしに余計に拭くといつたやうな具合ひに、他愛もなくあなたの丸い細い顎のあたりを傍らの有合せのタホルで拭き取りながら、せつせと書きものゝお仕事をなさる――それからそんな時、あなたの窓の外の松のみどり[#「みどり」に傍点]が一層、穂先きをあざやかに立てゝそしてそのぱちぱちの線が、またあなたの窓の磨りガラスへ程よくぼけて、あなたの汗を拭きとつた黄白いなめらかな頬へ、それから柔かい素直な分け髪へほんのりと青く反射する――
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