愛よ愛
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)覚束《おぼつか》なき
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)西洋|寝巻《ねまき》だ
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この人のうえをおもうときにおもわず力が入る。この人とのくらしに必要なわずらわしき日常生活もいやな交際も覚束《おぼつか》なきままにやってのけようとおもう。この人のためにはすこしの恥は涙を隠しても忍ぼうとおもう。
朝夕見なれしこの人、朝夕なにかしら眼新《めあた》らしきものをその上に見出《みいだ》すこの人。世間ではこの人をおとなのなかのおとなのようにいう。けれどもわたしにはこどもに見える。というわたしをこの人はまだこどものように見てなにかと覚束ながる。互《たがい》に眼を瞠目《みは》って、よくぞこのうき世の荒浪《あらなみ》に堪《た》うるよと思う。
おいおいたがいに無口になって、ときには無口の一日が過《すご》される。けれども心のつながりの無《な》い一日では無い。この人が眼で見よと知らする庭の初雪。この人が耳かたむける軒《のき》の雀《すずめ》にこのわたしも――。
むかし、いくたりの青年が、この人に競《き
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