前から現代まで持続している豪家の子女達がその豊富な物資に伴う伝統的教習に薫育されて、随分知識も感覚も発達して居る。だが結局その知識や教習がやがてそれ等自身を逆に批判し返す程の発達を遂げた。然《しか》しもともと受けた薫育の中枢はやはり伝統的教習であるから、いくら時代に刺戟されても断然新らしくなり切れもしない極端に発達した感覚は当惑し彷徨し、疲労する。やがていくらかの麻痺状態にまで達して何を見ても、何に接しても全部感銘し切れない。
「これ、好いわね、But(だけれど……)」
「そう、それも好いわね、But(だけれど……)」つまり But の数限りない連続が彼女等の生活の行進体の大部分なのだ。
[#ここから横組み]Grenadine《グレナジン》※[#3分の1、1−7−88] Drygin《ドライジン》※[#3分の2、1−7−89][#ここで横組み終わり]
玉子の白味一つ。
今、スワンソン夫人に命令された給仕男は鸚鵡《おうむ》返しにその通り復誦する。これは朝飯の「カクテール」と呼ばれているものであって、美髪師「マダム・H」のサロンから夫人が覚えて来たものである。「美髪師マダム・H」は顧
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