の模型がグロテスクな物体となって睥睨《へいげい》し嘲笑し、旧様式美に対する新様式の反逆を直截簡明に宣言している一群の進撃隊のようだ。
この芸術的手法に於てスワンソン邸のジョージアン式の骨董的建物の心臓に喰込み、その建物の躯幹を侮辱《ぶじょく》するような振舞いを新進室内装飾家G―氏に委嘱したスワンソン夫人にそれを後援する明確な現代的新意識があるかというに、そうでも無い。夫人はこの部屋が出来上った時G―氏に云った。
「まあ奇抜ね。But……少し品が足り無いようにわたくし思いますわ」
もちろん夫人はジョージアン式の旧い邸宅のカビ臭さには尚更幾つもの But を続けた結果この新式を招致して見たのだ。それでも矢張り But である。そして彼女は夫スワンソン氏にも劣らず彼女が持ち続けて居る彼女の家系的プライドに対してさえ英国民主主義的批判を時々振りかざして見る。
「――But。貴族なんてまったく前世紀の遺物よ」
ああでも[#「ああでも」に傍点]無い。こうでも[#「こうでも」に傍点]無い。一たいどうなのであろう。
英国の社会層の中に But クラスという貴婦人達の一層がある。ヴィクトリア朝以
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