めくり初めた。第一の窓から見る樫《かし》の茂みが過剰な重みで公園の鉄柵を噛んでいる。第二の窓からやや遠方を見る。其処の屋上起重機はロンドンの今朝の濃霧を重そうに荷っている。第三の窓をめくった時金具の磨きのぴかぴか光る騎馬が一騎高くいななき乍《なが》ら眼近の道芝に蹴込んで来た。彼女は不眠の眸瞼に点薬するように逆に第三から第一の窓外風景を今一度のぞき返した。
 多少の光線を恵まれたので室内の装飾の線の弧と、面の屈折と、角の直截と、金属性の半螺旋とがおのおのの適処適処に光を受留める。霧が追々薄れて窓からはいる光が増して来ると、新進室内装飾家G―氏の特性が追々明らかになって来る。
 鼠大理石が銀の肋骨《ろっこつ》を露出してマホガニーの木理の義足で立っているテーブル。曇硝子《くもりガラス》のさかずきが数限りなく重なり合い鋼鉄の尺木の顎《あご》に花を咲かせている照明燈。金魚がマホメット本寺《カセドラル》の円頂塔《ドーム》に立籠って風速に嚮《むか》っている、それをコルクの砂漠に並んでアネモネの花が礼拝している。これは活花台だ。月光を線に延ばして奇怪な形に編み上げたようなアームチェーアや現代機械の臓腑
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