そうに飲む老人の嗜慾に嫉妬《ゼラシー》を感じた。
 生々しい膝節を出してスカートのような赤縞のケウトを腰につけたスコットランド服の美貌の門番《ガードマン》が銀盆の上に沢山の「平凡」を運んで来た。
 答礼の花束。
 レセプションの招待状。
 慈善病院の資金窮乏の訴え。
 土耳古《トルコ》風呂の新築披露。
 コナンドイル未亡人からとどいた神秘主義実験報告のパンフレット。
 国際聯盟婦人会の幹事改選予選会報。等、ほかにまた一通夫人がしばらく手にとって眺めて居たものは古着払下げの勧誘広告だ。夫人の感情はこれに少し局部的の衝撃をうけた。
 ――失礼な――だがためしに売って見ようか――だが――。
 午前十一時半。ふらんす風の正式の「昼の朝飯」前に夫人は居間附応接室で彼女の夫と朝の挨拶を交す。
 モーニングの夫は眉を動かして、
「結構《グロリアス》な天気じゃないか、奥」
 そして彼はあらゆる問題に五分から二十分間位討論する用意は持って居る。「イギリスがもし注意を欠くなら」という前提で。だが、それから永くなるとぐっと反身《そりみ》になって、
「むろん、わしよりもそちらがこの問題についてはセンシブルな意
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