#ここで字下げ終わり]
女は何の飾も無くなった素の手首を見せて
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――だからあんたから阿片《アヘン》でも貰《もら》って、やけに呑んで見ようと思って。
[#ここで字下げ終わり]
小田島は苦笑し乍ら云った。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――生憎《あいにく》と僕は支那人じゃ無いのです。
[#ここで字下げ終わり]
だが、女はまだ疑って居るようだ。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――この土地にはね、死ぬ処を、アッシュや阿片で止めた女が沢山居るのよ。
[#ここで字下げ終わり]
三
太陽、大河口。かもめ――ドーヴィルから適当な距離のオンフルール海岸は、ドーヴィル賭博人の敗北の深傷《ふかで》や遊楽者達の激しい日夜の享楽から受ける炎症を癒《いや》しに行く静涼な土地だ。
レストラン、サン・シメオンの野天のテーブルで小海老を小田島に剥《は》がさせ乍ら、イベットは長い睫《まつげ》を昼の光線に煙らせて、セーヌの河口を眺めて居る。彼女が斯《こ》うしてじっとして居る時は、物を眺めて居るのか、何か考えて居るのか小
前へ
次へ
全55ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング