わり]
 彼女はしげしげ小田島の顔を見乍ら手を差し出した。彼もその手を握り返したが、力は無かった。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――仕方が無いなあ、それが君の運命なら。
[#ここで字下げ終わり]
 イベットは顔の緊張を解いてベンチから立ち上った。そして乗馬服の胴を撫で、スカートを軽く二つ三つ叩くと俯向き加減に歩き出した。が、ベンチから未だ腰を揚げ得ないで思案に暮れて居る小田島を再び振り返ったイベットは、もういつもの快活なイベットの張のある顔に返って居た。そしてその顔へ少しの媚《こび》さえ湛《たた》えて小田島の側へ戻り肩越しに彼の顔を覗き込んだ。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――ムッシュウ・小田島! あなた私に、何か欲しいものは無い?
[#ここで字下げ終わり]
 彼はだしぬけに云われて狼狽《うろた》えた。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――ほ、ほ、ほ、ほ、判らない? ムッシュウ・小田島。
[#ここで字下げ終わり]
 小田島は手足まで赫くした。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――……………………。
――私、どうしても嫌いな
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