御様子よ。
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 薄暗い祭壇の長い蝋燭《ろうそく》が百合《ゆり》の花の半面や聖母像の胸を照らして居てあとははっきり何も見えない。胴をちぎれる程締めたイベットの細身の乗馬服姿は修繕中の足場で妨げられたステンドグラスから僅な光で見出される。
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――君は発つんですってね。
――まあ、何処から聞いて来て?……そうなの、急に、今朝がたそれが極《きま》ったような訳なの。
――何うしてそんなに急に極まったの。誰かが極めたの。君自身が?
――みんなが極めたんですわ、市長さん始めこのドーヴィルの人達が。
――今日の夕方発つんだってね。彼処《あそこ》で馬を番してるお喋舌《しゃべり》の男に聞いたんだ。
――ええ、あの男お喋舌だけど割合いに親切で正直者よ。――で私、急に今朝あなたにお目に掛ろうとしたの。それからモンブラン(白山という馬の名)にも乗り納めのお名残が惜しみ度かったのよ。
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 彼女は殆ど小田島に寄り添って来た。
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――そして、もう調べはついたの?
――ええ、大たい――
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