た独逸《ドイツ》の腸詰王が鼾《いびき》をかき出した。などと忙しく説明し乍ら女は馴染みのタンゴ楽手のアルゼンチン人や友達の遊び女達の出入する度に挨拶の代りに舌を出したりした。
ウイスキーをしたたか呑んで、だんだん酔の廻って来る女と一緒に人仲に居るのも気がさすので、小田島は部屋へ引取ろうとして立ち上ると女は急に彼を睨《にら》み上げた。
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――へん、イベットならオンフルールくんだりまで行った癖に…………。
[#ここで字下げ終わり]
女の言葉には妙に性根があった。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――君は、どうしてそれを知ってるの。
――蛇の道ゃへび[#「へび」に傍点]さ、ふん。
[#ここで字下げ終わり]
女は横を向いてせせら笑ったが、今度は前より一層|酷《ひど》く小田島を睨み上げた。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――わたしゃ、いつだってあのイベットに男を取られちまうんだよ。
[#ここで字下げ終わり]
女の睨みが緩《ゆる》んで来ると惨《みじめ》なベソの様な表情が現れて来た。小田島は前からイベットと知り合いだとこ
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