[#ここで字下げ終わり]
彼女は廻りを見廻して小さい声になり
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――そろそろ歩き乍ら話しましょう…………フランスの大蔵省が秘密にして居る賭博場からの揚り高の大体の見当がついたわ。もっとも数字は百以上ある賭博場《カジノ》の中の主な九つだけに就いて判っただけだけれど、それだけでも判ればあとの予想はつく訳よ。あなたそれは如何《どれ》位あると思って? 去年のたった九つだけの賭博場からの揚り高でも総額二億六千万フラン以上よ。
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二億六千万フラン! それを日本平価に換算すれば二千万円以上の見当だ。それが九つの賭博場《カジノ》からの揚り高とすれば百以上からの上り高は大したものだ。しかし、彼は今、そんなことに驚いてばかり居る余裕は無い。崖下の人通の無い場所を幸い彼はぐっと強い調子でイベットに迫った。
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――マドモアゼル・イベット! 君は折角《せっかく》探ったそういう秘密を、どうして僕にそう喋舌っちまうんだ。それから僕をこんな訳も判ら無い贅沢地へ連れ出してなぶるような目にばかり逢せて置いて何が面白いんだ。君が僕に要求するのは一体何だ。
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小田島の言葉には来る早々からあんな女に纏《まつわ》られ通した憤懣《ふんまん》も彼の無意識の中に交って居る。と、イベットの体が少し慄《ふる》えて、その慄えの伝わる手が小田島の肩に掛った。
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――矢張り、あなたも、そう云う事をいう方だったの。
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彼女は有《あり》たけの精力を瞳に集め、小田島の顔に見入り言葉を続けた。
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――東洋人も西洋人と同じ様に矢張り謎に堪えられ無いのでしょうか。
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近くでつくづく見るイベットの身体は、乗馬服の毛織地を通してもその胸と腰とのふくらみ[#「ふくらみ」に傍点]に何処か「女」になり切れ無い小児性体質が感じられる。それがまた異様な魅力となって小田島の愛感を急き立てる。彼はぐっとイベットの手首と肩を押え、苦しそうな声を出した。
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――云って呉れ給え。もっと、はっきり云って呉れ給え。僕には君の云うことが、まだは
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