芸質がルンペン性を通じて人間を把握してゐるものだけに彼女の顧客の範囲は割合に狭い。狭いが深い。
ミスタンゲットを取り去つてもミスタンゲットの顧客は他に慰む手段もあらう。ダミアを取り去るときダミアの顧客に慰む術は無い。同じ意味からいつて彼女の芸は巴里の哀れさ寂しさをしみじみ秘めた小さいもろけた[#「もろけた」に傍点]小屋ほど適する。ルウロップ館ではまだ晴やかで広すぎる。矢張りモンパルナス裏のしよんぼりした寄席のボビノで聞くべきであらう。これを誤算したフランスの一映画会社が彼女をスターにして大仕掛けのフィルム一巻をこしらへた。しかしダミアはどうにも栄えなかつた。
底本:「日本の名随筆25 音」作品社
1984(昭和59)年11月25日第1刷発行
1999(平成11)年4月30日第17刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第十一巻」冬樹社
1976(昭和51)年7月第1刷発行
入力:門田裕志
校正:林 幸雄
2002年12月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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