のように両眼を輝やかし鞣皮《なめしがわ》細工のような形の宜《よ》い首を前へつき出した。
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――私達はマホメットの宗教を信じ剣を以《も》って邪を払い、詩を以って心を養います」
[#ここで字下げ終わり]
 宮坂はまたしても此の高飛車なまぜっかえしのような返答に逢ってちょっと吹き出しそうにしたが、直ぐまたむっとして怒ったような顔をそむけて沈黙した。
 其の時ガルスワーシーは北側の壁の中央に在るマントルピースの上に立てかけてあった小さい額を取り卸《おろ》して来て日本人達に見せた。彼に取っては迷惑千万な宗教問題を得たり賢しと自分に引取って面白くもない自己吹聴を並べたてる回々《マホメット》教徒の女の誇張した恍惚感の説明や排他的な語気は、たとえ相客が表面無礼を感ぜぬように装って居るにしても主人側から見て英国人のサロンの空気をにがにがしくするように思った。ガルスワーシーが突如此の額を卸ろして来て景子達に差出した仕打ちは一つは宗教問題打ち切りの宣告でもあり、一つは印度女への無言の叱責でもあった。其の額にはガルスワーシーが畏敬と如才ない愛想の筆致でもって戯画化さ
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