て異常な好奇心と憧憬から自分から進んで黒繻子《くろじゅす》の襟《えり》のおかみさんになったのであった。全くの山の手のお嬢さん気質と、全くの下町の坊っちゃん気質と共通するところがあって彼女は国太郎にナイーブなところを見付けていた。国太郎はまたどうかしてこの教育ある令嬢出のおかみさんの尊敬を贏《か》ち得るような夫になろうと苦心した。
努めて下町のおかみさんになろうとする梅子は少しの悪びれたところも見せず「交際なら」と国太郎を遊里に出してやるようにする。国太郎も、官吏のお嬢さんを貰って側にばかりへばり付いて居るという非難を河岸の者から聴き度くない為め、精々交際は欠かさないようにする。そして、どこの里にも馴染《なじみ》という女の一人や二人はある。だがそれが何だ。子供の時から父親に連れられて出入りした遊びの巷《ちまた》に、今更パッショネートなものを見出すべくも無い。寧《むし》ろ梅子の側に居る時くらい歓びを感じるときは無い。それでいて梅子とは何一つしみじみした話をすることも無いのだ。ただ世間でお雛《ひな》さまのようと言われる美しい夫婦の顔を向き合って菓子位つまむだけだ。ここにも小笹屋の若旦那の大
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