行きかけた。流石《さすが》に国太郎はそのまま僧を去らすわけには行かなかった。袖を控える。
――遊ぶって、あなたが遊びなさるのですか、その坊さんの服装で」
すると僧は少し心配そうな顔になり
――はあ、この服装では登楼さして呉れませんかな」
――いや、そうじゃあ、ありませんが、だいぶ勇気がおありですな」
僧はそれを聞いて安心したふうで頭に手をやり
――いや、まことに生臭坊主で」
僧は流石に笠を冠って大門の中へ入って行った。国太郎の心には不思議なものが残った。
四
引手茶屋山口巴から使を出して招んだ得意客を待受け、酒宴をして居ると夕暮になった。
相変らず酒宴の座を一人持ち切りで掻き廻している魯八の芸も今は国太郎にはしつこく鼻についた。さっき見た雲水僧の言葉態度が妙に心に引っかかっていた。やがて提灯《ちょうちん》に送られて、国太郎の連中はK――楼へ入った。K――楼に入ると直ぐに楼の女から雲水僧の到着を聞かされたので、国太郎の全身は殆ど僧に対する一つの探求心になって、客たちを成るたけ早く部屋々々へ引き取らせ、自分は馴染の太夫の部屋に起きていて終夜、魯八を間
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