かぎょう》から預けられた土塊《つちくれ》や石柱を抱《かか》え、それが彼等《かれら》の眼の中に一《いっ》ぱいつまっているのだ。その眼がたまたまぬすみ視した処《ところ》が、それは別に意味も無い傍見《わきみ》に過ぎないと、かの女は結論をひとりでつける。そして思いやり深くその労役《ろうえき》の彼等を、あべこべに此方《こちら》から見返えすのであった。
陽気で無邪気なかの女はまた、恐ろしく思索《しさく》好きだ。思索が遠い天心《てんしん》か、地軸にかかっている時もあり、優生学《ゆうせいがく》や、死後の問題でもあり、因果律《いんがりつ》や自己の運命観にもいつかつながる。喰《た》べ度《た》いものや好《よ》い着物についてもいつか考え込んで居《い》る。だが、直《す》ぐ気が変《かわ》って眼の前の売地の札《ふだ》の前に立ちどまって自分の僅《わず》かな貯金と較《くら》べて価格を考えても見たりする。
かの女は今、自分の住宅の為《ため》にさして新《あた》らしい欲望を持って居ないのを逸作はよく知って居る。かの女が仮想《かそう》に楽しむ――巴里《パリ》に居る独《ひとり》息子が帰ったら、此《こ》の辺《あたり》へ家を建て
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