草《にちりんそう》の花のような尨大《ぼうだい》な眼。だが、気弱な頬《ほお》が月のようにはにかんでいる。無器用《ぶきよう》な小供《こども》のように卒直に歩く――実は長い洋行後|駒下駄《こまげた》をまだ克《よ》く穿《は》き馴《な》れて居ないのだ。朝の空気を吸う唇に紅《べに》は付けないと言い切って居るその唇は、四十前後の体を身持《みも》ちよく保って居る健康な女の唇の紅《あか》さだ。荒い銘仙絣《めいせんがすり》の単衣《ひとえ》を短かく着て帯の結びばかり少し日本の伝統に添《そ》っているけれど、あとは異人女が着物を着たようにぼやけた間の抜けた着かたをして居る。
――ね、あんたアミダ様、わたしカンノン様。
と、かの女は柔《やわら》かく光る逸作の小さい眼を指差し、自分の丸い額《ひたい》を指で突いて一寸《ちょっと》気取っては見たけれど、でも他人が見たら、およそ、おかしな一対《いっつい》の男と女が、毎朝、何処《どこ》へ、何しに行くと思うだろうとも気がさすのだった。うぬ惚《ぼ》れの強いかの女はまた、莫迦《ばか》莫迦しくひがみ[#「ひがみ」に傍点]易《やす》くもある。だが結局|人夫《にんぷ》は人夫の稼業《
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