的に男と女が惚《ほ》れたりはれ[#「はれ」に傍点]たりすることばかりが抒情的じゃないくらい君判んないのかい。息子は頭が良いよ。君の日常の心身のムードに特殊性を認めてそれを抒情的と言ったんだよ、新らしい言い方だよ。
――うむ、そうか。
かの女のぱっちりした眼が生きて、巴里の空を望むような瞳《ひとみ》の作用をした。
――判ってよ、ようく判ってよ。
かの女は腰かけたまま足をぱたぱたさせた。
かの女の小児型の足が二つ毬《まり》のように弾《は》ずんだ。よく見ればそれに大人《おとな》の筋肉の隆起《りゅうき》がいくらかあった。それを地上に落ち付けると赭茶《あかちゃ》の駒下駄《こまげた》の緒《お》の廻《まわ》りだけが括《くび》れて血色を寄せている。その柔《やわら》かい筋肉とは無関係に、角化質《かくかしつ》の堅い爪《つめ》が短かく尖《さき》の丸い稚《おさ》ない指を屈伏《くっぷく》させるように確乎《かっこ》と並んでいる。此奴《こいつ》の強情《ごうじょう》!と、逸作はその爪を眼で圧《おさ》えながら言った。
――それからね。君の強情も。
――あたしの強情も抒情《じょじょう》的のなかに這入《はい》
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