かの女は、まことに、息子に小児性と呼ばれた程《ほど》あって、小児の如《ごと》く堪《こら》え性《しょう》が無《な》かった。
主人逸作が待って居《い》そうでもあったが、ひと[#「ひと」に傍点]と話をして居るのを好《よ》いことにして、息子の手紙の封筒を破った。そして今のような文面にいきなり打突《ぶつ》かった。
だが、かの女としては、それが息子の手紙でさえあれば、何でも好かった。小言《こごと》であろうと、ねだりであろうと、(だが、甘えの時は無かった。息子は二十三歳で、十代の時自分を生んだ母の、まして小児性を心得て居て、甘えるどころではなくて、母の甘えに逢《あ》っては叱《しか》ったり指導したりする役だった。普通生活には少しだらしなかったが、本当は感情的で頭の鋭い正直な男子だった。)そしてやっぱり一人息子にぞっこん[#「ぞっこん」に傍点]な主人逸作への良き見舞品となる息子の手紙は、いつも彼女は自分が先《さ》きに破るのだった。
――あら竹越さんなの。
逸作と玄関で話して居たのは、かの女の処《ところ》へ原稿の用で来た「文明社」の記者であった。
――はあ、こんなに早く上《あが》って済みませんで
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