いる。その時息子は言った。「子を生むようなフランス女とは結婚しませんよ。」それはフランス女を子を生む実用にしないと言うのか、或《あるい》は子を生むような実用的なフランス女は美的でないと言う若者の普通な美意識から出た言葉か知らなかったが、それも今では懐かしくかの女に思い返されるのであった。六年前連れて行ってかの女と逸作が一昨年|帰《か》える時、息子ばかりが巴里《パリ》に残った。
 かの女が分譲地の標札《ひょうさつ》の前に停《とま》って、息子に対する妄想《もうそう》を逞《たくま》しくして居《い》る間、逸作は二間|程《ほど》離れておとなしく[#「おとなしく」に傍点]直立して居た。おとなしく[#「おとなしく」に傍点]と言っても逸作のは只《ただ》のおとなしさ[#「おとなしさ」に傍点]ではない。宇宙を小馬鹿《こばか》にしたような、ぬけぬけしいおとなしさ[#「おとなしさ」に傍点]だ。だから、太陽の光線とじか[#「じか」に傍点]取引《とりひ》きである。逸作のような端正《たんせい》な顔立ちには月光の照りが相応《ふさわ》しそうで、実は逸作にはまだそれより現世に接近したひと皮がある。そのせいか逸作も太陽が好
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