涯を小さくから追はされたその市中は、
吾が半生の鬪ひの地、吾が半生の汚れの地、
吾が十代のときからの過去と追憶を葬むる墳墓の地、
おお吾が墓は市内の到る處にある。
少年の聖なる禽獸の眼を輝かした其の最初の時代に、
次いで、絶望の闇い眼を、青春時代に、
狂氣と粗暴の眼を飛躍の時代に、
忽ち喜悦を、忽ち意氣阻喪を自己の建設の時代に、
おお吾が墓は市内の到る處にある。
ああ吾が墓は市内の到る處にある。
廓街《くるわまち》から突き出てゐる泥海《どろうみ》の中の島は、
私等中學生の隱れ休む芝草の巣だつた。
青ペンキ塗り剥げた三階建ての古校舍《ふるかうしや》は、
吾れら二十代のものゝ不平と重荷の授産場《じゆさんば》だつた。
市《まち》の東を貫く廣い河は、
人生の單調と孤獨とを夙《はや》くから教へた無愛想な死面《しめん》の寡婦《ごけ》である。
ああ吾が墓は市内の到る處にある。
市の中心を貫く繁華な電車街の大通り、
そこには金と白堊、青銅と硝子《ガラス》、瓦と大理石、
大小建築の軒並《のきなみ》屋根|高低《たかひく》に立並び、立續き、
いそぐ馬、蹴魂しい自動車、疾驅する電車、すれ交《ちが》ひ、行交
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