ひ、馳せ交ふ群集、
そこには午前《ひるまへ》の赤い日、黄金《きん》の高屋根越しに照らすけれど、
路上の土塵《つちほこり》はまき上り、空中をこめ、半空を掻き濁らせ、
その灰白色な惡騷《わるさわ》がしさを迫き立て迫き立て押しこくり、
目まぐるしくも烈しい首府の繁榮をその鈴懸《すずかけ》の並木の上に形づくる。
ああ年少の時、私はこの目醒ましい大都會の活動に驚いた。
おお私の光明と滿足、そこにも吾が墓がある、吾が無邪氣な過去の崇拜がある、
しかし今にして思へば、この繁榮の上には襤褸の黒い大旗が懸つてゐる。
ああ花崗石の橋、濠割、並木の道路、人馬の雜沓、
そこには人間の壯麗な活動の美は見るに未だよしなく、
唯だ額青黒い群集が馳交ひ、行交ひ、すれ交ひ、
半ば濁れる大都會の華かな光を、忙しく呑む。
ああ吾が生ひ育つた市中のどこに、輝かしい精神がある、
あの瀝青色《チヤンいろ》の惡水ひかる濠割、
日蔭少い平地の諸公園、
赤衣裳の番卒の如き諸官省、
木立の葉、土ほこりに白い社、大寺院、大學……
背低くの胴に圓屋根《まるやね》赤く、さながら娼妓の嬌態《けうたい》と髮飾りを思はせる劇場、
更に工場、會社、
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