《いろどりづ》を、
縫ひ縫ひ遠く遠く遠く彼方の果てに走せつつある……
ああ其の果て、銀灰の靄につつまれた地平の果て、
そこには吾れらが祖國の若い首府あり、
目ざましい吾れらの時代の紅《あか》い呼吸《いき》、
芽生えの青い感情、
さしのぞく華かな生の眼、
生を愛して心|霓《にじ》なす寶石の胸、
若く雄々しく純《きよら》かな青春の魂、
すべては今泥と襤褸《ぼろ》との大市街に包まれて、
未だ生れず、未だ叫ばず、
遙か彼方、地平の果てに、
黒煙《くろけむり》たち濁る地平の果てに、
おお海と平野、空と土地との別れ目に、
銀灰の靄の上に黒い突點を見せ、黒い帶を曳き、
遠く靜かに大都會は呼吸《いき》しつつある……
ああ季節は今|初夏《しよか》、日は水蒸氣たてこめる中空を薄曇らせ、
光ある眼下の風情《ふぜい》をおぼめかせ打和《うちやはら》げ、
思ひ深ませる肅《しめや》かな眞晝時《まひるどき》、
天地はさながら私、この未來を不斷に夢見るものに、
その單色にして質《しつ》まづしい行く手の彼《か》の世界を、夢ならぬ現實の世界を、
その儘、此處に語るやうである。
ああ私等の泥と襤褸との首府、
吾が可憐な生
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